TPR(Total Physical Response)

~日本語を学んだ道筋にできるだけ近く~

  TPRとは英語圏の国々で、英語圏以外の国からやってきた子供たちに英語を教育するために一般的に使われる手法です。
 日本人の赤ん坊が日本語を覚えていく過程で、お母さんは日本語の文法を赤ん坊に教え、それで日本語を話せるように教育するわけではありません。赤ん坊は、「立っちしなさいよ」とか「マンマ?」などと話しかけられ、あるいは、おじいちゃんとおばあちゃんの間で交わされる会話を自然と耳にし、いつの間にか日本語を理解し、話せるようになります。耳にしたことを何となく赤ん坊は実践し、周りの反応を伺います。つまり体を使い自ら体験し、確認しながら言葉を習得していきます。TPRはそういう理屈に基づいています。

 発生言語学というものがあります。いったいどういう順序で人は母国語を習得していくのかを考える学問です。日本人の子供は「マンマ」くらいから話し始め、「僕、ジューチュほちい」など主語が文に組み込まれるようになり、そのうちきちんとした日本語を話せるようになります。当然、英語を母国語として話す人々の間でも同じようなことが起こります。英語圏の国の子供は、初めから三単現のsを上手に使いこなせる訳ではないということです。
 この発生言語学がTPRのバックボーンになっています。「じゃあどんな順番でもいいから英語でどんどん話しかければいいのか?そうすれば子供たちはいつの間にか英語を理解するのか?」あり得るかもしれませんが合理的ではありません。発生言語学に沿って言葉あるいは表現を、階段を上るようにして、単純なもの覚えやすいものから系統立てて教えていくべきです。
"Stand up.""Sit down."など単純な命令文から始まります。こういった命令文を教師がジェスチャーや絵を使って教えます。のちに"Can you swim ?"など文はだんだん複雑になっていきます。子供たちは教師から与えられた文に対し、言われた通りの動作をしたり、口頭で答えたりして反応します。TPRで大切なことは日本語訳を子供に与えないということです。教師がどんどん英語のシャワーを子供たちに浴びせるのです。

 では、TPRでどのような効果が得られるのでしょうか。
 もちろんリスニング能力が高まるという分かりやすいものもあります。しかし、こちらの方が副次的というか、おまけのようなものだとお考えください。これよりももっと重要な効果があります。
 それは英語専用の神経回路を作ることです。
 日本人は、日常的な表現であれば、「ツウ」と言われれば「カア」と答えることができます。私たちは、日本語を話す際いちいち文法的にどういう風にしゃべろうと考え日本語を話すわけではありません。私たちの中には日本語専用の神経回路があるからできるのです。
 英語をスラスラ理解し、話せるようになるには、英語専用の神経回路が必要なのです。この神経回路は、何も会話の際にだけ役立つわけではありません。長文問題にあたるときも大いに役立ちます。何しろ英語を英語の語順のまま理解できるのですから。
 ところで、私たちは幼い頃より、「聞く→話す→読む→書く→文法」の順序で日本語を学んできました。文法が最後なのです。この順序は世界中で普遍です。要するに、この順序が一番合理的だということです。
 TPRは入り口の「聞く→話す」の部分を担当します。TPRで英語を聞かせ、英語を体験させ、そうして「読む→書く→文法」と続きます。最後に文法で何となく理解していた英語をきちんと整理してあげます。そうすると文法のみを習い頭だけで理解するよりずっと大勢の子供たちが英語を得意科目にすることができるのです。